シンポジウム「日韓連帯とは何だったのか、何を生み出したのかーその基層にあるもの」
本シンポジウムでは、1970-80年代日韓連帯運動と90年代以降のそれとの変容と継続を明らかにすべく、90年代以降運動の各個別現場におけるそれぞれの成果と課題、各個別運動を横につなぐ理念および展望を議論する。それをとおして、「日韓連帯」というトランスナショナルな運動文化に作用する思想と行動のメカニズムを探り、その基層にあるものに迫る。
1965年に脱植民地化の課題を度外視したまま国交を正常化した日韓両国は、1990年代に入り、歴史問題が日韓関係の懸案として浮上すると、「請求権は解決済み」だとする認識にもとづくいわゆる「65年体制」の限界が浮き彫りになり、それが近年、両国が尖り合う根源をなしている。とはいえ、「65年体制」を廃棄するともなれば日韓関係は破局を免れまい。
だとするならば、「65年体制」に代わる日韓関係の新たな枠組みを生み出す必要があるが、そもそも戦後の日韓関係は「65年体制」に全面的に依存してきたわけではない。むしろ「65年体制」に回収されないかたちで築かれてきた市民運動や民間交流も数多く存在する。たとえば、韓国の民主化運動や歴史問題の真相究明・戦後補償裁判を支えてきた日本の市民運動も日韓関係の重要な一場面と言える。そこでカギとなるのが「日韓連帯」というキーワードである。
1970年代以降、日本の市民社会では、韓国の民主化運動へのコミットや、貧困・公害輸出・買春観光など社会問題への関心、在日コリアンの社会的・法的権利をめぐる市民運動など「日韓連帯」の流れが存在した。これらのうち、韓国の民主化をターゲットにした概念としての「日韓連帯」は韓国の民主化とともに過去のものとされ、その実践的・象徴的イメージは途切れてきたとはいえる。しかし、実際のところ1970年代当時から運動の現場に参加していた人びとのなかには、国民国家レベルの動向とは別に直向きに運動を続け、あるいはその後時代や社会の変化とともに都度に新たな主題を立て社会変革への歩みを築いてきた。こうした蓄積が、1990年代以降、戦後補償裁判を日本の市民社会が支え、それが「戦後日本の戦争責任論」にも変容を促したように、「日韓連帯」の実践は双方向的・自己変革的な関係へと進化しつつ継続されていると言える。
本シンポジウムでは、運動のイシューごとに「日韓連帯」を分析するのではなく、朝鮮半島と日本の近現代を生きるなかで、関与の濃淡強弱がありながら連帯を繋いできたものは何なのかを検討する。そのために、こうした「日韓連帯」の多様な体験を掘り起こし、見つめ直すことが「65年体制」を克服する→根底から再編する新たな枠組みの土台となりうるはずである。重要なことは、日韓の市民社会が実践した共同作業の連続と断絶、継承と発展の系譜をたどり、こうした連帯を突き動かしてきた言説と理念を丹念に導き出す作業である。そうすることによって、日韓の市民社会の実践を連続する運動体験の蓄積として統合的に把握し、連帯の実像に接近できるといえる。
【主催】北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院東アジアメディア研究センター/国際高麗学会日本支部
【日時】2024年6月8日(土)13:00-17:00
【会場】北海道大学 学術交流会館 北海道札幌市北区北8条西5丁目
〇JRをご利用の場合:JR「札幌駅」下車、徒歩7分
〇地下鉄をご利用の場合:市営交通・地下鉄南北線「さっぽろ駅」下車、徒歩8分、「北12条駅」下車、徒歩7分
※学術交流会館についてはこちらをご参照ください。
★参加方法★
対面とオンラインのハイブリット開催です。対面参加をご希望の方は直接会場にお越し下さい。参加費は無料です。
オンライン参加の方は、当日、ご希望のプログラムのZoom URL(下記)にアクセスし、お名前とメールアドレスをご入力いただくと参加可能となります。
[Zoom URL]
〇シンポジウム「日韓連帯とは何だったのか、何を生み出したのかーその基層にあるもの」
ZOOM URLは、こちらにアクセスしてください。
[基調講演] 玄武岩さん(北海道大学)
[パネリスト] 櫻井すみれさん(東京大学大学院)、全ウンフィさん(大阪公立大学)、李昤京さん(立教大学)
[コメンテーター] 松田素二さん(総合地球環境学研究所)、金友子さん(立命館大学)
[司会] 伊地知紀子さん(大阪公立大学)
≪登壇者プロフィール≫
玄武岩|ひょんむあん
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会情報学)。現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。専門分野はメディア文化論、日韓関係論。著書に『コリアン・ネットワーク-メディア・移動の歴史と空間』(北海道大学出版会、2013年)、『「反日」と「嫌韓」の同時代史-ナショナリズムの境界を越えて』(勉誠出版、2016年)、『ポスト帝国の東アジア-言説・表象・記憶』(青土社、2022年)など。
全 ウンフィ|ちょん うんふぃ
韓国生まれ・育ち、大学院から留学。大阪公立大学大学院文学研究科都市文化研究センター研究員。ウトロ平和祈念館展示運営部会。
主要論文「宇治市A地区にみる高度成長期以降の「不法占拠」の存続要因」『都市文化研究』23号 2021;「地続きの朝鮮に出会う――ウトロ地区と向き合った京都府南部地域の市民運動の軌跡」大野光明編『越境と連帯 社会運動史研究4』新曜社 2022ほか。
櫻井 すみれ|さくらい すみれ
1990年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在学中。2024年度日本学術振興会特別研究員(DC2)。70年代以降の歴史問題をめぐる市民運動に関心をもち、現在、指紋押捺拒否運動について研究中。主要論文に、「強制連行・強制労働の歴史から地域社会を問いなおす-「相模湖・ダムの歴史を記録する会」の活動を中心に」(『年報地域文化研究』26号 2023)、日本人市民にとっての指紋押捺拒否運動-茅ヶ崎市「指紋押捺拒否を考える会」を題材に(『アジア地域文化研究』19号 2023)がある。
李 昤京|り りょんぎょん
立教大学兼任講師。立教大学平和・コミュニティ研究機構特別任用研究員。2011年2月から韓国国家記録院海外記録調査委員、2015年から韓国週刊紙『時事IN』編集委員。韓国大邱の「ハルモニたちと共にする市民の会」会員、「済州島四・三事件を考える会・東京」実行委員。政治学専攻、現代日韓関係史、人権・平和学。元日本軍「慰安婦」問題・済州4・3・在日韓国人「スパイ」捏造事件など国家暴力に関する問題の解決運動に関わりながら研究をしている。共著に進藤榮一編著『中国・北朝鮮脅威論を超えて東アジア不戦共同体の構築』(2017)、『문화융합 시대의 지역사회 : 일본군 '위안부' 문옥주의 증언과 지역』(2023)、訳書に『草 日本軍「慰安婦」のリビング・ヒストリー』(2020)、『在日韓国人スパイ捏造事件——11人の再審無罪への道程』(2023)など。
松田 素二|まつだ もとじ
1955年生。ナイロビ大学大学院修士課程を経て、京都大学大学院文学研究科博士課程中退。現在、京都大学名誉教授、総合地球環境学研究所特任教授。専門は社会人間学、アフリカ地域研究。主要な編著書に、『新書アフリカ史』(1997、改訂新版2018)『日常人類学宣言! 生活世界の深層へ/から』(2009)等。1998年共編『新書アフリカ史』でNIRA東畑精一記念賞受賞。
金 友子|きむ うぢゃ
立命館大学国際関係学部教員。「アプロ・未来を創造する在日コリアン女性ネットワーク」メンバー。専門領域は在日朝鮮人をめぐる問題、ジェンダー研究・フェミニズム理論。在日朝鮮人をはじめとして朝鮮半島から世界各地に離散した朝鮮民族のエスニック/ナショナルアイデンティティ、とりわけ「祖国」との関わり合いと彼ら・彼女らの民族・国家意識の形成過程を明らかにする研究に取り組んできた。最近は、1960年代から70年代の在日韓国人学生の祖国意識と運動に関する研究を行っている。論文に「立命館大学「チョン語」問題」(『政策科学』30巻3号、2023年)、共著に『レイシズムを考える』(共和国、2021年)、翻訳に『被害と加害のフェミニズム』(共訳、解放出版社、2023年)など。
伊地知 紀子|いぢち のりこ
1966年生。大阪市立大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学、博士(文学)。大阪公立大学大学院文学研究科教員。国際高麗学会本部事務次長・日本支部会長。大阪コリアタウン歴史資料館副館長。専門は、朝鮮地域研究、生活世界の社会学、文化人類学。著書に、『和解をめぐる市民運動の取り組み─その意義と課題』(明石書店,2022,共著)、『阪神都市圏の研究』(ナカニシヤ出版,2022, 共著),『街場の日韓論』(晶文社,2020,共著)、『消されたマッコリ。─朝鮮・家醸酒(カヤンジュ)文化を今に受け継ぐ』(社会評論社,2015,単著)など。
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