東アジアにおける戦後の脱植民地化は、帝国主義に冷戦構造が折り重なる暴力の連鎖に巻き込まれていきます。冷戦体制の崩壊という世界史的転換を迎えることで、暴力の時代を克服して正義を回復し、和解を成し遂げることの課題と向き合ってきましたが、それは未完のままです。戦争と帝国、そして冷戦の構造のなかで、消え去ることなく「残ってしまった場所」において、記憶やナラティブがどのように生成され、翻訳され、衝突してきたのかを、ともに問いかけます。
日時:2026年2月27日(金)14:00-17:00
場所:北海道大学学術交流会館 第1会議室
使用言語:日本語
参加費:無料(申込み不要)
司会:芳賀恵
討論:許仁碩、武藤優、壱岐朱花、崔碩鎭、田泰昊
研究発表▷
チャン・スヒ(張秀熙:東亜大学校 韓国語文学科 非常勤講師/文学博士)
「法廷という舞台――日本軍「慰安婦」ナラティブを中心に」
韓国における日本軍「慰安婦」関連ナラティブでは、法廷は女性を保護し権利を保障する場というよりも、判断や規律、社会的統制が作用する空間として描かれてきた。そこでは男性中心的な法秩序と国家権力が前景化され、女性たちの証言は疑われ、争点化され、繰り返し価値を切り下げられてきた。こうした表象は、戦後韓国社会において生存者が十分な法的承認や人権を得られなかった現実を映し出している。本研究は、ナラティブにおける法廷表象を検討し、特に2000年女性国際戦犯法廷を契機とする変化に注目する。法廷はそれ以前には女性の声を抑圧する男性的空間として描かれていたが、その後は、生存者が証言を通じて歴史を再構成し、集合的記憶を語り、法的正義の可能性を構想する場として再定義されていく。以上の分析を通じて、本研究は、法廷という象徴的装置が、記憶・正義・権利、そして歴史的責任という問題といかに交差しているのかを明らかにする。
シン・ヒョナ(申賢娥:釜山大学校 韓国民族文化研究所 研究教授/文学博士)
「船は去ったが、ドックは残った――冷戦期における日韓造船産業都市の衰退と時間差」
本研究は、日本の造船産業都市が栄枯盛衰する過程における都市景観と情動を韓国の造船産業都市と比較して分析する。造船産業都市の特徴は、造船所という大工場を中心に地域全体の生活様式が構成されている点である。日本は米ソ冷戦期に造船産業の全盛期を迎え、その後、韓国が後発として登場し、現在、衰退の時期に差し掛かっている。 そこで、日本の造船産業都市の景観と地域の生活がどのように構成されたかを分析し、韓国の造船産業都市の現在の問題を把握しようとする。
イ・ジンヒ・マサヒロ(李真煕:関西学院大学非常勤講師/博士〔現代アジア研究〕)
「沖縄を描くということ――ジャーナリズムとドラマのはざまで」
本報告では、冷戦と帝国の構造のもとで形作られ「残されてきた場所」としての沖縄県が、現代のメディアにおいていかに語られ、理解されようとしているのかを検討する。沖縄を舞台とするドラマ『フェンス』(2023年、WOWOW制作)を主な分析対象とし、あわせて2025年にCNA(シンガポール)が制作した沖縄を扱うドキュメンタリー番組を比較対象として取り上げる。両作品を学生とともに視聴した結果、国際報道型ドキュメンタリーよりも、フィクションである『フェンス』の方が沖縄についての理解を深めたと受け止める学生が多かった。本報告ではこの受容の差異に注目し、『フェンス』が実際の事件や出来事、基地建設をめぐる抗議行動の実写映像を取り込み、フィクションとジャーナリズムの境界を横断する構成を採用している点を分析する。冷戦と過去の支配の影響が現在まで続く状況のなかで、「沖縄」をめぐる記憶や語りがどのように生み出され、受け渡され、時にぶつかり合いながらメディアを通じて共有されているのかを考察する。
イ・ミンジェ(李玟宰:国立木浦大学 文化と自然遺産研究所 専任研究員/文学博士)
「北海道の日本酒産業と朝鮮米」
本研究は、北海道において「商品朝鮮米」がいかに関与・活用されたのかを考察し、特に北海道地域の日本酒醸造業において、商品朝鮮米が主要な原料として採用されるに至った経緯を明らかにすることを目的とする。近代以前の朝鮮半島の歴史において、北海道との交流は顕著には見られない。朝鮮王朝が琉球と公私にわたり活発に交流した歴史と比較すれば、国家間の交流が明白に存在した前近代期まで、北海道と朝鮮半島の交流は僅少であった。両地域間の交流が本格化したのは帝国日本期以降であり、その中心には「米」が存在した。現在、北海道は日本国内でも有数の米産地となっているが、20世紀初頭までは十分な生産量を確保できておらず、むしろ外部からの移入に依拠する地域であった。その際、注目を集めたのが商品朝鮮米である。商品朝鮮米とは、植民地朝鮮で生産され、商品として移出された米を指し、その90%以上が日本本土へと移出されていた。地域別に見ると、大阪を含む関西地域や東京を含む関東地域が主な市場であったが、北海道もまた主要な移入先の一つであった。本稿では、北海道における商品朝鮮米の流通網形成過程や用途の拡大プロセスを辿るとともに、北海道の醸造業が商品朝鮮米に着目した背景、およびその利用形態について検討を行う。
主催:北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院附属東アジアメディア研究センター
協力:メディアアンビシャス
問い合わせ先:玄(011)706-6937
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