本講座の開講にあたって

日韓関係の危機的状況が続いています。歴史問題をめぐる対立が常態化し、近年は日本の国際競争 力や経済的地位の指標が旧植民地の韓国や台湾に 追い抜かれたとする記事を目にするようになりました。いわゆる「65 年体制」が揺らぐニューノーマルの時代に突入したとも言われています。 新型コロナウイルスにより相互の往来が途切れて いるなか、政治関係の対立が深まると、大衆文化や民間交流によって持ちこたえている両国関係は破綻しかねません。日韓関係は政府や企業間の公式関係に限らず、社会・文化の領域におけるインフォーマルな市民運動や民間交流なども日韓関係の重要な側面なのです。

日韓の市民社会の交流は、1970 年代以降、日本 の市民が韓国の民主化を支援する「日韓連帯」の掛け声とともに、主に軍事独裁に抵抗する運動として展開してきました。韓国の民主化後は、舞台が「反独裁民主化」から「歴史問題」へと移ります。植民地支配下の韓国の戦争被害者を原告とする日本での裁判闘争を支えたのも、日本の市民たちです。

このように、奥行きと幅広さを持つ「日韓連帯」ですが、その政治的・歴史的意義は今も十分に理解されていません。それは、市民連帯論の枠組みが十分に精緻化されていないことや、「日韓連帯」のさまざまな経験が積み重ねられていないことによるものです。

それでも、「日韓連帯」の経験はナショナリズムの境界を越える可能性を秘めています。植民地時代に端を発する諸問題への日本の市民社会の取り組みは、どのように相互作用して国家暴力に対する越境的な抵抗へと転化していくのでしょうか。 本講座は平和研究を基盤にしてポスト冷戦時代を見据えた新たな日韓関係のあり方について対話を行います。市民社会の領域から「65 年体制」を 乗り越える方法を模索してみませんか。国家間関係が揺さぶられても市民社会がそれを支え、また国家権力の暴走時には連帯して抵抗していく-------- そのビジョンを見出すことを目指していきましょう。

開催概要

主催
北海道大学東アジアメディア研究センター
早稲田大学韓国学研究所
参加費
無料
参加方法
5月10日までにこちらのフォームに必要事項を入力して送信してください。各回の開催当日までに、ご登録いただいたメールアドレス宛にZoomのURLまたは開催場所についての情報をお送りします。

※すべての回の受講を前提とし、達成された方には修了証をお渡しします。単発で受講される方は別途ご連絡ください。

各回の内容

日付部分をクリックすると、各回の内容を見ることができます。

第1回 5月13日【オンライン】

岡まさはる記念長崎平和資料館の歩み

故岡正治氏は「長崎在日朝鮮人の人権を守る会」の代表として、 戦後早い時期から日本の加害責任を究明する市民活動を展開 してきました。「岡まさはる記念長崎平和資料館」は、岡氏の遺志を継ぎ、史実に基づいて日本の加害責任を訴えるべく市民の手で設立されました。今回の講座では当館の設立経緯や活動について紹介し、これからの戦後補償問題について考えます。


講師:新海智広(岡まさはる記念長崎平和資料館副理事長)
1956年、神奈川県生まれ。1978年、長崎に移住し、高等学校勤務の傍ら1980年代より「長崎在日朝鮮人の人権を守る会」に加わる。1995年、「岡まさはる記念長崎平和資料館」設立に参画し、現在副理事長。他に「長崎の中国人強制連行裁判を支援する会」事務局長を務める。

第2回 5月27日【対面&オンライン】 (早稲田大学)

韓国の現代史を撮り続けて

講師は水俣病の先駆的な写真家として知られ、韓国ともゆかりの深い人物です。1964 年に初訪韓して以来、50 年にわたり韓 国の分断状況や近代化・民主化の様子を撮り続けてきました。その作品の多くは、韓国の報道写真の空白を埋める貴重なものです。今回の講座では、これらの作品を通して、韓国の民主化と近代化の主役である市井の人びとに思いを馳せます。


講師:桑原史成(報道写真家)
1936年、島根県津和野町生まれ。2014 年、写真展「不知火海」 および写真集「水俣事件」で土門拳賞を受賞。2021年、写真家ユー ジン・スミスが水俣を取材した足跡を追った映画「MINAMATA― ミナマタ―」の上映に合わせ、写真展「MINAMATA」を都内で開催した。

第3回 6月10日【対面&オンライン】 (北海道大学)

関東大震災朝鮮人犠牲者を追悼する

1923年に起きた関東大震災の直後、日本人による朝鮮人虐殺 事件が多発しました。1982年に発足した「関東大震災時に虐殺された朝鮮人の遺骨を発掘し追悼する会」は、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件の現場にこだわり、証言の聞き書きや文献資料収集を行ってきました。今回の講座では、「追悼する会」が隠蔽されてきた加害の歴史とどのように向き合ってきたのかを報告します。


講師:西崎雅夫(一般社団法人ほうせんか理事)
1959年、東京都足立区生まれ。1982年、大学4年生の時に「追悼する会」発足に参加。以降、中学校教員をしながら市民運動を続ける。現在は教員を辞め、「一般社団法人ほうせんか」理事として、主に事件現場のフィールドワークに従事している。

第4回 6月24日【対面&オンライン】 (北海道大学)

隣国との「縁」を取材して~身近な場からみる~

講師は、渡来文化が根づき、在日コリアンが多く暮らす関西で長く記者生活を送りました。その後、2011 年から3年間のソ ウル支局での勤務を経験し、まるで東京の首相官邸と韓国の青 瓦台の仲が日韓関係であるかのような報道のあり方に限界を 感じて、足元から隣国関係を見つめ直そうと模索しています。 今回の講座では、関西の話題を中心に、身近な場にいきる朝鮮 半島との「縁」を紹介し、隣国との関係を考えます。


講師:中野晃(朝日新聞記者)
1971年、奈良県生まれ。1994年、朝日新聞社入社。これまで秋田、 大津、大阪、東京、ソウル、大阪、高松、大阪で勤務し、2021年 9月から宝塚を拠点に取材している。著書に『植民地朝鮮に生きて 〜百歳の元教師からの伝言〜』(工房草土社)、共著に『歴史は生きている 東アジアの近現代がわかる10のテーマ』(朝日新聞出版) など。

第5回 7月8日【対面&オンライン】 (北海道大学)

朝鮮人/日本人 祖母たちの旅程

講師の祖父母は日帝植民地時代の朝鮮で出会いました。祖父は日本人、祖母は朝鮮人です。双方の家族の猛反対を押し切り結婚した二人。日本の敗戦で強制送還された祖父を追って渡日した祖母と母は、戦後日本社会の混乱と民族差別の荒波を乗り越えて生きることになります。今回の講座では、講師の教育活動と市民活動の原動力にもなった、祖母をはじめとする家族の生き様を紹介します。


講師:都築寿美枝(市民活動家)
1952年、岡山県岡山市生まれ。母方の祖母は朝鮮人。元広島県の公立中学校教師。市民活動として日本軍性奴隷制問題やハンセン病問題に取り組む。

第6回 7月22日【オンライン】

沖縄と朝鮮人

沖縄と朝鮮人----。これまであまり注目されてこなかったものの、沖縄を考える際に重要な視点を提供する問題です。今回の 講座では、戦時と復帰50年の沖縄における朝鮮人の境遇を学びます。また、現在の遺骨発掘の状況を紹介し、この発掘が東アジアという文脈に貴重な経験をもたらしていることについても考えます。


講師:呉世宗(琉球大学)
1974年生まれ。博士(学術)。琉球大学人文社会学部教授。主な著書に、早尾貴紀・呉世宗・趙 慶喜『残余の声を聴く―沖縄・韓国・パレスチナ』明石書店、2021年。『沖縄と朝鮮のはざまで-朝鮮人の〈可視化/不可視化〉をめぐる歴史と語り』(明石書店、2019年)など。

第7回 8月5日【対面&オンライン】 (北海道大学)

脱境界の詩人・茨木のり子

茨木のり子氏は夫の死後、1976年からハングルの学習を始め、 1990年に『韓国現代詩選』を翻訳出版するなど、韓国との関 わり合いに情熱を注ぎこみました。この情熱は何に由来しているものなのでしょうか。彼女の詩は、韓国でどのように読まれているのでしょうか。今回の講座では、茨木氏が残したメッセージから、現代を生きる私たちが汲み取るべきことについて考えます。


講師:金智英(立教大学)
1984年、韓国ソウル市生まれ。2014年、大東文化大学文学部日 本文学科卒業。2019年、立教大学大学院文学研究科比較文明学専攻博士後期課程修了。現在、立教大学兼任講師。著書に『隣の国の ことばですものー茨木のり子と韓国』(筑摩書房、2020年)がある 。

2022年度日韓連帯市民講座リーフレット.pdf