「からゆきさん」を安易に「慰安婦」の前史として位置づけるべきではない―
嶽本新奈『「からゆきさん」-海外〈出稼ぎ〉女性の近代』が示すのは、「からゆきさん」を「公娼」と「私娼」の相違を無化する存在として位置づけ、その連続線上にある「慰安婦」においても、国家権力による動員が帝国の拡大にともなう偶発的な出来事であることを補強するために用いることへの警鐘でしょう。
一方、1980年代以降、日本にはフィリピンを始めとするアジア各国から女性の〈出稼ぎ〉労働者が来日し、「ジャパゆきさん」と呼ばれました。これも「からゆきさん」に込められた「多様な民族の拮抗によって開拓されたインターナショナルな心象世界」(森崎和江)に対する無理解が歪めた典型といえます。「からゆきさん」は、その歴史的文脈と思想的考察から切り離され、女性の国際移動におけるセクシュアリティを表明する際に野放図に用いられてきました。
本ワークショップは、こうした「からゆきさん」に関する言説の流用について問いただし、植民地主義への視点が鋭く投影されている森崎和江の『からゆきさん』に軸足をおきながら、その連帯の思想を貫く「越境」の意味を浮かび上がらせます。
【第1部 「からゆきさん」から「ジャパゆきさん」へ】
嶽本新奈(明治学院大学・学振PD)
「からゆきさん」にとっての「越境」とは何か-「連帯」を阻むもの
大野聖良(お茶の水女子大学)
「ジャパゆきさん」とは誰か―日本の女性運動の視点から
【第2部 「日韓連帯」の思想-森崎和江と富山妙子】
玄武岩(北海道大学)
森崎和江の〈原罪を葬る旅〉-植民者二世がたどるアジア・女性・交流の歴史
李美淑(立教大学)
画家・富山妙子と「帰らぬ女たち」
コメンテーター:水溜真由美(北海道大学)
司会:松井理恵(北星学園大学)
日時:2018年8月8日 13:00〜17:30
場所:北海道大学 遠友学舎(北18条西7丁目)
主催:北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院
東アジアメディア研究センター/メディア・ツーリズム研究センター
/科研(C)「森崎和江の越境する連帯の思想」
問い合わせ:メディア・コミュニケーション研究院 芳賀
(eastasian2@imc.hokudai.ac.jp)
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