2009年11月1日観察中国傳媒(第2回)

11月上旬、胡舒立が「財経」の編集長を辞任したというニュースが流れた。「財経」は1998年創刊の隔週刊の経済誌。創刊以来、株式市場や企業の不祥事 のスクープを数々ものにし、「独立」したメディアと言われてきた。編集理念にも「独立、独家(独占報道)、独到(ユニーク)」と「独」の言葉が掲げられて いる。「独立」を謳うにはわけがある。親会社が「中国証券市場研究設計中心」という中国の証券市場の設立に関与した特別な組織であり、通常、活字メディア が受ける宣伝部―新聞出版總署といったラインの統制からはずれている。さらに彼女は、著名な文化人・胡愈之から始まる新聞出版関連の高級幹部を母方の親戚 に有し、父も高官という政治的背景を持つ。それゆえ、株式市場の健全化という国策をよりどころとして、自由度の高い報道が許されてきたのだ。「財経」を 11年かけて、中国を代表するメディアに育て上げた胡が辞任し、同社の社員も大量退社という風聞が伝えられた際に、「当局の介入」が頭によぎったが、事の真相は少し違うようだ。10月16日付のBBC中国語版によると、経営方針をめぐって、経営層と胡が対立したと言う。紙媒体が低迷していることは中国とて 同じ。彼女はネットへの進出とさらなる編集自主権を経営陣に要求、経営層は安定的な経営とこれ以上「面倒を起こさない」ことを求めたという。11月初旬に 私が北京で会った関係者も「財経」の問題は経営がらみとの認識を示していた。人治の国、中国。特別な政治的背景をもつ編集長が去った後、「財経」は「独 立」した報道が可能であろうか。 (渡邉)